【アバター】

 3D上映で、アバターもエクボになるか、とか哀しいオヤジギャグを思いつつ、やっとの思いでIMAXシアターで観ることができた。上映開始日から、なんだかんだの雑用の合間を狙っていたのである。
 なるべく各種情報を知らない状態で観たかったが、この作品はtwitterを始め、NET上に各種の情報が氾濫していたので、若干の先入観はあったかも知れない。しかし個人的には非常に大きな感銘を受けた。
 富野監督は「ダメだ」といい、押井監督は「10年かかっても超えられたない」といった。二人の巨匠の両極端な反応が、この作品の持つ大きな意味を示している。それは、(アングルや構成、演出、動き、カメラまで含めた)映像技術の進展である。
 3D上映を前提にした映像技術のマスターピースを、キャメロン監督は作ろうと試み、それにかなり成功したような印象を受ける。私の目には、ほとんどのカットがいかに魅力的に3D映像を見せるかの実験室のように見えた。あるいは、いままでの2Dの映像の魅力を3D的に解釈し直したもののように、だ。3D映像で可能な表現の全部入り作品というか、......ついでにいえば、話さえもそう。......それで、スターウォーズ以降のSF映画が、多かれ少なかれスターウォーズを参照しつつ絵作りをしていかなければならないように、この作品以降の3D上映映画はその製作時にこの作品を参照しなければいけないということになるだろう。
 以下、特徴的に感じられたことを述べていきたい。

 まず3D感に関してだが、これはまぁ当然として、今までの3D作品との違いは、キャラクターのフォルムが見える立体感だと思う。言葉でうまく表現できないが、立体解像度が上がった感じというか、立体感がすっきりしていて、視線に対して平行に近い角度の面(つまり輪郭近くの面)の形状や凹凸がはっきり感じられる。このように上映される3Dのモデルには今まで以上のクオリティが求められるようになるだろう。凹凸ではなく、マッスとして捕えた体のパーツ間のボリューム比が、大事になってくるはずだ。
 不思議な点として、実は私は映像作品の中のキャラクターの身長をリアルに感じられない方なのだが(もちろん概念的には分かる。そこに彼または彼女がいるようには感じられないということ)、この作品ではキャラクターの体躯の大きさをかなり実体験のように感じ取ることができた。
 それから、人間型のキャラクターのCGモーション(リアル系--モーションキャプチャー)としては、表情を含めてほぼ理想的な仕上がりになっていると思う。

 しかし、3D上映ゆえのいくつかの新しい問題がいくつか。(以前触れた、手前のオブジェクト実在感半減問題と、急な動きがばらけて見える問題を除く。これらはやはり同じ症状が現れていた)

・物体のハイライトと写り込みが、左右の画像でズレすぎて、ひとつのイメージに統合できない。
・屈折率の描画が、合成の都合か、3D上映の都合で、カットされている。結果として、ガラスの厚みがなくなってしまっているカットが多い(ヘルメットのガラスや、戦闘機のコックピット、水面描写等)。
・炎が描画が立体的にできないらしく、大きくブラーをかけた描画になっていた。
......等々、思い返せば次々と出てくるが、これは私の仕事柄の重箱の隅つつきというものかも知れない。多分、この作品は映像の世界においてSW登場時にも似たインパクトがあり、それは今後必ず大きな影響を残すことになるので、上記のようなささいな問題は、それに比べたらほとんど問題にならない。

 通常の映像と3D映像は、やはり違うものであり、私たちの視覚は通常の映像に慣れ切っている。だから3時間の長尺を持つこの作品の後半にもなると、眼はスクリーンを2D的に見始める。意識を画面の遠近感に持っていくと、3D画面に戻るということが何回かあった。
 実は3D映像の最大のインパクトというのは、単なる物珍しさの衝撃ではなく、観ている私たちの内的な感覚が変わる点にあるのかも知れない。ヴィジュアリゼーション(視覚化)を扱った文献を見てみると、内的なイメージが、最初は2D的だったものがやがて3D的に奥行きを持つことを語ったものが結構ある。内的なイメージというのは外の世界を見ている時も内側にはあるものなので、通常私たちが見ている外界は、内面に映し出された外界のイメージであるということが言える。だから、2D映像に慣れ切った私たちの観ている外界は2D的外界で、3D映像に慣れた世代が登場すれば、そのイメージの世界は、現実の目の前の世界でさえ3D的であることだろう。これは、ことに日本人にとっては大きな世界観の変化であるに違いないのだが、......日本人の世界観は平面的で欧米人のそれは立体的であるという、この昔から私に取りついていた問題は後日に稿を改めて考えてみたい。

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