死のドレスを花嫁に

 スリラーだと、けっこう奥義的な殺人方法である"暗示殺人"のバリエーションを扱っている(なんて書くとほとんどネタバレのようであるが、この作品のポイントはそれではないので、ご容赦を)。
 なぜ奥義的かというと、私が思いつく範囲では江戸川乱歩とクリスティがこの殺人方法を扱っていて、江戸川乱歩も明智探偵が「困った事件だ」とか言っていたような記憶があるし(超うる覚え)、ポアロなんて解決のために××が×××という、大変なことになっちゃったわけだし、殺人と非殺人のギリギリの処にある、言ってみれば完全犯罪であるのだ。どういうものかというと、自分は手を下さずに、他人に対して、意識に残るか残らないかの暗示を与え、他人が自らの意志で殺人を犯すように仕向けるのである。つまり高度な殺人教唆ということになるのだが、「殺しちまえよ」というのなら犯罪でも、「あいつのせいであなたはこんなに不幸なんだね」とかなんとか言っているだけなら犯罪にはならないわけだ。でも、その言葉が心のウィークポイントに引っかかっていった場合、暗示された人間はその相手を殺すところまで行ってしまう。
 この方法の鍵は、殺人を実行させられた人間の心理的な綾をどこまで教唆者が理解できるかと言うことで、上述の乱歩やクリスティの犯人はまさにそこに天才的な才能を持っている設定だった。
 実際、私の知り合いに、非常な癒着状態で知人に対して迷惑を与えていた自分の友人のA氏のB氏に対する態度を決定させるために、タイミングを計ってAに対してBのある行動を知らせ、結果としてAとBの関係に決定的なヒビを入れることに成功した人間がいる(コワ......)。つまり私はこの目で見たのだ、そういうことはできるので、小説上の架空の存在であるかのような"暗示殺人"も、実際はあり得るのかも知れない。
 この作品での犯人はそこまでエレガントな天才ではなく、色々動いてそのような状況を作っていこうとしたりするので、まぁ暗示殺人界では幕下的存在ではあるのだが、スピーディーさと無理目ギリギリのどんでん返しの連続で、作品自体はなかなかの佳作となっている。この事件があり得るかと言ったら、ないだろうな。でもディーバーの作品に対して「こりゃぁ無理だろう」という人がいないように、この作品もリアリティとは別の妙味を持っているので、なんだかんだ言いつつ多分ほとんど一気読みになると。
 ともかく、暗示殺人というのは、他人の意志を別の人間が作ってしまうので始末に負えないのだが、考えてみると、暗示やはっきりと意識化されないほのめかしを使って、他人の意志に干渉すること、そのような心理操作は、首尾にかかわらずたくさんあり、人間界の法ではもちろん何ともできないのだが、閻魔さまはちゃんとそのような悪魔的な犯罪をカウントしていて、死後にはきっちり落とし前を付けられそうなのが怖い。

 さらによく考えると、このような暗示を人間はお互いに与えあっていたりして、それはもう人間の業というものかなと。

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