オッド・トーマスの霊感

 名作だ傑作だと出版社が喧伝するのは毎度のことだが、何十年とそんなのに付き合っていると、本気の「傑作」と宣伝用傑作がなんとなく区別できてくる。この作品もやたら気合いの入った傑作フラグを立てられているが、安心して欲しい。はっきりと前者の方である。
 一読、ネタの選び方といい料理の仕方といい、まさにクーンツなのだが、良い意味でクーンツじゃないみたいだ。自分自身を越えた作品というのは、大概読み手にとってもいい作品になることが多いのである......。
 主人公は、死者と、一種の霊界の存在が見える能力を持っている。後は、最近のこの作者の「あり得ない優等生路線」を引き継いで、ほとんど宗教的な良いヤツぶりを。この程度の能力では、クーンツにしては地味である。この地味さが、傑作のための条件になったようだ。
 基本的にただ見られるだけなので、描写が厚くなり、多分そのために、霊界の存在たちが分厚い存在感を持っているのだ(あと、現実界のキャラクターも)。
 非常にリアルであり、実際に死者が見えたらこんな感じだろうという生理的な予感さえ感じさせる。
 ......霊界のイメージとしては典型的なアメリカの霊界像で、この世とあの世の間にリンボがあって、あの世は、この世とレベルが違うので、見えない。死者は基本的にあの世に行くのだが、行く前にこの世への未練や思い込みに従ってリンボに留まる。主人公はこのリンボの存在だけを察知できるのだ。
 そんな世界観であるが、ストーリーは、いわゆる「(作家が)一生に一度だけ使うことが許される」と言われる奥義的なネタを使っている。
 クーンツがこの仕掛けを使ったのには驚いたが、また使ってみるといかにもクーンツ的な仕掛けにも見えてきて、要はかなりこなれているということだろう。いずれにしても、泣かされる話である。宣伝通り、ハンカチ必須の傑作である。(ハヤカワ文庫)

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