"目が腐る"こと

 私も若かりし頃、美術系の浪人生だった頃は睡眠マニアだった。今でも「寝れば病気のほとんどは治る」と確信しているぐらいで、睡眠に拘ることにかけては人後に落ちない自信があるが、新陳代謝の固まりである20歳前後のそれには全然かなわない。なにしろその年頃は激しく入れ替わる細胞が爆睡を欲しているのであるから。

 あゝ、若い肉体!

 というわけで、予備校には午後にならないと来ない者、それどころか終了30分前にやって来て道具だけ並べて帰る者など、爆睡者が続出した。(そういえば、「爆睡」という言葉自体、はじめて聞いたのは美大だったと記憶している)

 そんな睡眠マニアたちの間で怖れられていたのが、「目が腐る」現象である。

 たくさん寝た後のデッサンで、形状が狂ったり調子がおかしかったりする問題で、これは充分な(あるいは適度な)睡眠時間により眼球がイカレてしまう現象と考えられていた。悪化すると「目が死んだ」と言われた。実際に、目が痛かったりもしたものである(往々にして美術系は神経過敏である)。

 そして、目が腐らないための条件として、経験論的に「睡眠時間6時間」という説が流布していた。これは、今でも本当であったと思っている。しかし、体の皮肉というか、当時は6時間ではどうしても意識の睡眠不足感をぬぐえず、結果として、「目が調子よければ頭が眠い」、「頭が快調なら目が腐っている」という恐怖の二律背反があるのであった。

 今になると、人間というのは複合的な存在であり、あちら立てばこちら立たず、全体として快調という状態ははなはだ困難で不可能なことだ、と。各々の器官が一つの条件に「良い」だの「悪い」だのとバラバラに反応してしまうので、簡単な割り切り方で全部OKにはならないのだなぁと思ってしまう。

 そして、そんな複合性・多義性は道徳的にも同じであって、何かの道義的な行動......、たとえば仕事熱心、とかが、周りにとってはとんでもない悪徳であることなども、やはりあるのである。

 閻魔さまは我々の何を裁くだろうか......。


 ※ちなみに、デザイナーの場合、モニターを1時間見たら10分目を閉じる、という形で眼球はかなり積極的に休ませることをお勧めします。息抜きにインターネットとかゲームとかはいけません。現代社会は、「眼球緊張しっぱなし社会」ですから。



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